【レポート】温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」の現状と世界の二酸化炭素観測衛星

画像:宇宙博2014で展示中の「いぶき」実物大模型 撮影NVS

2014年5月24日、陸域観測技術衛星「だいち2号」が種子島宇宙センターより打ち上げられた後に、ひとつの報告が上がった。

5月25日 温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)の観測停止。

衛星に電力を供給する太陽電池パドルの回転機構トラブルにより観測停止となったのだが、幸い5月31日から観測を再開した。トラブルがきっかけと言うわけではないが、ここで「いぶき」の状況を整理してみようと思う。

■「いぶき」の成果
温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」は2009年1月にH-IIA 15号機で打ち上げられた。当時、全球の二酸化炭素やメタンガス濃度測定を行う唯一の衛星であった。2014年で運用5年が経過し、観測データも5年分の蓄積し、なおも観測中である。(
設計寿命5年)
主要な成果として、温室効果ガスである二酸化炭素とメタンの全球の季節毎の濃度観測、データより、3000km^2 単位での各地域の吸収排出量推定を算出している。
その結果は、COP/CMP(国連気候変動枠組条約締結国会議/京都議定書締結国会議)でも紹介されており、2013年のCOP19での日本の提言「攻めの地球温暖化外交戦略」においても、「いぶき」後継機による温室効果ガスモニタリングの施策が述べられている。

衛星の特徴をまつわる1つの出来事としては、2010年4月にアイスランドで大きな噴火があり、その噴煙影響により欧州の航空機運航が麻痺した事があった。ちょうど運用を始めた「いぶき」は大気のエアロゾル(ほこり)をよく観測できるため、大気の噴煙データ提供を行った事もあった。

■「いぶき」のトラブル
「いぶき」は順調に観測を行っているが、太陽電池パドルに関して2度トラブルを起こしている。JAXAに取材をした事をまとめる。

1度目は2010年2月。
「いぶき」は、地球を南北にまわる極軌道から、主に衛星直下の大気を観測している。その場合、極軌道では機体の向きに対して、常に太陽の方向が変化するため、効率良く発電できるように太陽電池パドルを回転させる機構を持っている。

図1:「いぶき」の軌道上での機体の向きと、パドルの方向について

「いぶき」には太陽電池パドルが左右に2翼あり、その1翼(パドル2側)の回転させる機構が動かなくなるトラブルが発生した。パドルを回転させる機構は1翼につき、2つあるため主系(A)から冗長系(B)に切替をして、運用を再開している。

図2:衛星打上げ時のパドルと駆動部のステータス

図3:2010年2月 パドル駆動部故障と冗長系への切り替え

2度目は2014年5月。
今度は、1度目とは反対側の太陽電池パドル(1側)の回転機構が動かなくなるトラブルが発生。「いぶき」の太陽電池パドルを動かす駆動部は、主系(A)と冗長系(B)をセットで運用する必要があるため、パドルを1翼のみ回転させての観測継続となった。

図4:2014年5月 駆動部故障で片翼稼働になる。


画像:「いぶき」実物模型の太陽パドル回転部

パドル1翼でも2400Wと、定常観測を行う分の電力を発生できるため、今後の観測に支障は出ないとのことだ。(ただし、衛星直下以外の方向を観測する特定点観測モードは停止となる)

■二酸化炭素観測衛星シリーズの今後
「いぶき」の運用期間は5年を想定されて設計されているが、観測センサーは現在も支障なく動いている。衛星の姿勢と軌道を維持する燃料も約90kg程度残っており、これは後14年運用可能な量となる。

(余談だが、2014年3月から「いぶき」のクイックルック画像がUSTREAMで配信されている。色は観測波長で表現されているので自然色ではないが、直近観測の地上や雲の様子を眺めることが出来る。のんびり雲の様子を眺めるのも楽しい)

Broadcast live streaming video on Ustream


温室効果ガスの衛星観測について状況が変わったのが、つい最近となる。
2014月7月にNASAの二酸化炭素観測衛星OCO-2がようやく上がった。

画像:NASA OCO-2のロゴ

画像:NASA OCO-2
OCO-2打上げ成功を祈願して

本来は、2010年にOCO-1が上がり、「いぶき」ともデータ補完を行う関係だったのだが、ロケットのフェアリングが開かず、打ち上げ失敗となった。衛星喪失後NASAは急いで衛星の再作成を行い、OCO-2を軌道に乗せた。

「いぶき」とOCO-2との間で同時観測と校正・検証をおこない、相互のデータ精度向上が期待されている。「いぶき」の後継機GOSAT-2が軌道に投入されるのも、2017年目標であり、しばらく時間がかかる。地球温暖化の主原因の1つとみられている大気中の温室効果ガス濃度上昇であるが、温暖化予測や国際的な方針に反映させるにしても、全球の継続的な観測データは大きな指針となる。
NASAのOSO-2が上がったことで「いぶき」と観測データの相互較正が可能になり、さらに「いぶき」と後継機GOSAT-2との間にも、同時運用期間を持てることが、継続観測に繋がり、科学的にも大きな成果となるでしょう。

■地球観測衛星シリーズのバス
衛星の電力、通信、姿勢制御などの機能維持に必要な基本部分のことを「バス」と言う。近年、JAXAが打ち上げた地球観測タイプの衛星「いぶき」「しずく」「だいち2号」は同じタイプのバスを使用している。
実は「いぶき」からのバス機能は、可能な限り機能を冗長化させて、1系統が壊れても、すぐに全損にならないような工夫が加えられている。
今回のように、太陽電池パドルが1翼動かなくなる状況でも、運用継続が可能になっているのは、衛星全体の冗長度を高め、設計に余裕があるためと言える。
「いぶき」より、さらに昔の地球観測衛星「みどり」「みどり2」「だいち」では、電力確保に必要な太陽電池パドルの破損、電源部の故障が原因で観測停止となった。「いぶき」の衛星バスは、その教訓を受けて設計されている。
「いぶき」以後の衛星バスに関しては、2010年のパドルトラブルを受けて「だいち2号」ではパドル回転機構を国産に変更し、トラブル対応がしやすいように改善されている。

地球観測系で気候変動、地形変動など推測していくには、継続観測でデータを経年で蓄積するのが重要となる。計画上は継続観測が出来る様に衛星を上げる事になっているが、予算面等の都合もあり、衛星の打上げ間隔は開きがちだ。衛星の寿命はもちろん設計目標が設けられるが、観測センサーが健在な間は長く稼働し、継続観測となることを期待していきたい。
( NVS @kimi_lica

■参考情報
温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)の観測停止と再開について
http://www.satnavi.jaxa.jp/project/gosat/news/2014/140527.html

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