【取材レポート】三菱重工 H-IIAロケット打上げ輸送サービスに​関する発表


画像:機体移動をするH-IIAロケット11号機 204型 (今回の発表で使われるものと同型) 撮影:NVS

2013年9月26日に発表された、三菱重工業の
打上げ輸送サービス事業に関する発表会の模様です。

商業受注に関しての説明を行う
三菱重工業株式会社 航空宇宙事業本部 宇宙事業部長     淺田正一郎氏(左)
          航空宇宙事業本部 宇宙事業部 営業部長 阿部直彦氏 (右)

撮影:NVS

USTREAMでアーカイブ視聴する≫ http://www.ustream.tv/recorded/39251766
ニコニコ生放送でタイムシフト視聴する≫
 
http://live.nicovideo.jp/watch/lv153941416


プレスリリースはこちら
テレサット社(本社カナダ)の通信放送衛星打上げ輸送サービスを受注



画像:H-IIA21号機で高度化実証につかわれた、断熱塗装をした2段目。 撮影:NVS
(今回の発表の打上げでは、2段目高度化されたものを使う)

■会見概要
 会見概要を@iwamototuka さんがおこして頂きました。 ありがとうございます。
 http://d.hatena.ne.jp/iwamototuka/20130926/p1 より引用となります。

    発表文読み上げ

    淺田:本日は非常に嬉しいニュースを。テレサット社(本社カナダ)の通信放送衛星打ち上げ輸送サービスを受注。過去に韓国の衛星を受注しているが、商業衛星としては初めて。MHIは大手衛星オペレーターであるテレサット社(カナダはオタワ)のTELSTAR 12V打ち上げを受注した。打ち上げは2015年後半。TELSATR 12Vは西経15度の放送衛星の後継機。南アフリカ・大西洋・ヨーロッパ・ミドルイースト&アフリカの広範なエリアをカバー。テレサット社は9月初め、この衛星をフランスのアストリウム社から調達と発表。

    今回の打ち上げロケットはJAXAのもと開発を進めているH-IIA第2段高度化開発の成果を活用するものであり、衛星をより静止軌道に近い軌道へ投入することが可能であり、今回はその初号機。テレサット社社長ダニエル・S・ゴールドバーグ氏は次のように述べている。

    「今回TELSTAR 12Vの打上げを三菱重工に発注するのは、他の打上げ事業者との広範囲な比較検討の結果です。具体的には、三菱重工が提供するサービスが技術・運用面での経験、打上げスケジュールの柔軟性、ロケットの性能、取引条件等のテレサット社の選定基準において他の打上げ事業者より優れていました。テレサット社は、今回の三菱重工との協働が我々にとって新たな一歩を刻むものであると確信しています。 テレサット社と三菱重工の協働関係が成功し、我々の最新の衛星が計画通り打ち上がることを楽しみにしています。」

    また私の声明だが、「テレサット社は世界有数の衛星オペレーターであります。同社が今回の衛星打上げで当社を選んだことは、H-IIA改良機の優れた性能と高い信頼性を裏付けるものと言えます。私たちは世界市場で競っていく高い能力と専門性を有していると自負していますが、テレサット社のような主要な衛星オペレーターが、多々ある打上げ事業者の中から当社並びに我が国の技術力を評価し信頼してくれたことに感謝するとともに、衛星打上げで同社と協力し合えることを楽しみにしています。」

    H-IIAだが、これまで22機打ち上げ21機成功。打ち上げ成功率は95.5%台。我が国の実用衛星打ち上げ用ロケットは1975年のN-I、これはアメリカの技術を導入したものだが、当時の宇宙開発事業団(NASDA)、その後のJAXAによってN-II・H-I・H-II、H-IIA、H-IIBと開発が進められてきた。これらの開発で主要な役割を果たしてきた当社はJAXAから技術移転を受け、2007年9月のH-IIA13号機から、H-IIBに関してはつい先日8月から当社が打ち上げ民営化を担っている。そのような中、2009年に海外顧客発となる韓国KOMPSAT-3の打ち上げ受注に続き、今回発の商業衛星打ち上げ受注。当社にとって新たな地平を切り開くもの。

    今回の受注を弾みとして国内外の衛星打ち上げ輸送サービス市場でいっそう積極的に営業活動を展開し、我が国の自在的な宇宙活動を支える産業基盤の確立に中心的な役割を果たしていきたい。

    PowerPointによる説明

    世界の商業衛星オペレーター。1位はインテルサット社。テレサット社は世界4位。日本のスカパーJSATさんは5位。いわゆるメジャーリーガーの受注を得たということ。打ち上げ時期は2015年後半。我が社にとって2015年の静止衛星打ち上げは2機と非常に少ない。我々が商業衛星受注を行う意義として打ち上げ基数を揃えるということ。静止衛星が多ければ製造能力に余裕が無くなるが静止衛星が非常に少ない。2015年は穴埋めのためにも非常に役に立つ。質量はテレサット社との覚書により公表はできないがかなり重い衛星。204型というH-IIAの中では最強のバージョンで対応する。普段はSRB-Aが2本ある202型を使用している。204型はSRB-Aが4本。打ち上げ能力が1.5倍。今回はこの204型とともに、JAXAで開発中の高度化(第2段改良型)を利用し衛星を寄り静止軌道に近い軌道まで運ぶ。JAXAとの役割分担としては、JAXAは高度化飛行実証として第2段機体システムを準備。我々は打ち上げ輸送サービスとして高度化飛行実証機会を提供。政府の静止軌道ミッションが非常に少ない。放送衛星打ち上げを通じて実証する。

    高度化で何が助かるかというと、非常に難しい話になるが、日本から打ち上げた場合(静止化増速量1830m/s)の能力4.0t(202型の場合)や6.0t(204型の場合)であるが、世界標準の増速量としてこれは許容してもらえない。アリアン5の打ち上げ方で行うと2tや3tなどと半分ほどになる。今までの機体だと今回の衛星は打ち上げられなかった。高度化により202型だと2.9t、204型だと4.7tとなり世界市場で受注可能となった。204型はこれまで1回飛行しており、2006年12月にJAXAのETS-VIII「きく8号」を静止軌道に運んだ。

    今までの打ち上げ方は種子島から打ち上げ第2段が赤道を通過するあたり、クリスマス島上空を通過し衛星を切り離す。衛星は遠地点36000kmの楕円軌道で、遠地点で衛星自身の燃料を噴かすことにより静止軌道に入る。ここで問題となるのは、軌道面は地球の重心を貫くため種子島から打ち上げると軌道面が赤道面に対し斜めになる。ここで軌道面を変更するためにロケットが燃料を使用するため能力がどんどん落ちていく。これまでは打ち上げ後30分ほどで赤道面に達し、そこで衛星を分離していた。これをずっと抱えて飛行するように変更し、遠地点に近いところで衛星を切り離す。なぜこれが良いか。ケプラーの法則といい、半径が小さいとスピードが速くなり大きくなると(遠くまで行くと)遅くなる。速い時より遅い時に軌道面を転換する方が得になる。電池の容量や燃料の蒸発などのためこれまで出来ていなかった。高度化ではタンクを白く塗装し太陽の入熱を少なくした。また、再びエンジンを使用する時に極低温燃料が沸騰しないよう5時間のコースト(遠地点までの軌道)の間にエンジンを冷やし続けなければならならず、そのための燃料を節約する工夫など。また再々着火時に60%程度へのスロットリングにも対応。

    質疑

    ―NHK:改めて今回初めての商業衛星受注の意義を

    淺田:我々がベースとするのは政府の衛星だが、年によって2機や4機と変動する。2015年は2機しか無い。これを平滑化しないと産業界としては対応できない。我々はそのために商業受注を考えている。これまで様々な問題がありなかなか受注できなかったが、今回世界4位というメジャーから認めて貰ったということでマーケットの中である程度の評価が得られ、我々に対して引き合いが増える。政府に対し新型ロケット開発をお願いし、文科省からも予算要求を出して頂いているが、その新型ロケットで競争力を出していくために打ち上げコストを半分にしたい。しかしそうすると機数を倍にしないと産業レベルを保てない。政府衛星は増えないので商業衛星を取りに行かなければならない。今のうちに実績を作り信用力を増していかなければならない。例えば、宅配便で荷物を運ぶ時に全然知らない宅配業者ではなくある程度使い慣れている有名なところか、もしくは無茶苦茶安いところに頼む。今回の受注で知名度が増すことにより、新型ロケットが出来上がるまでにそれを確固たるものとしたい。

    ―これまで受注のネックになっていたところ、今回クリアできたところなど

    1つは打ち上げ時期の制約。2つめは打ち上げ能力。3つめは価格。1つめに関しては一昨年文科省の努力により通年打ち上げが可能となった。2つめについては商業衛星に対し打ち上げ能力が低く引き合いが来ても打ち上げられなかった。3つめについてはつい1年ほど前まで1ドル80円といった具合で、この状態で勝負しろと言っても非常に苦しい。これが100円ほどになりこれだけでも価格が25%下げられる。この3つが重なって受注にこぎ着けられた。

    ―基本的なことで恐縮だが、衛星オペレーターとは

    淺田:スカパーJSATさんの例で言うと、通信・放送衛星を打ち上げて運用し通信サービスを提供する会社。スカパーは自分自身で放送も行っている。また放送会社に対しトランスポンダのレンタル料を、通信についても衛星の中の送受信機のレンタル料で収入を得る。

    ―スペースニュース:JAXAとMHIの役割分担だが、これは第2段機体についてはJAXAの負担で製造するという意味か? 今回初めて政府の絡まない商業衛星の受注ということで独自のピギーバックペイロードを搭載可能になるが、それらを今後商業受注していく予定はあるか。またはMHI独自のペイロードを載せる予定はあるか。

    阿部:開発はJAXA。費用などは商業なので答えるのは控えたい。

    淺田:ピギーバックについては貢献したいと考えているが今回は高度化を適用しても能力ギリギリ。詳細な交渉を進め、もし余れば可能性は出てくるかも。

    ―読売:受注額を。また円安で受注額が下がっているという話だが、一般ではH-IIAは100億といわれているがH-IIB含めてかなり下がると思う。潮目が変わってかなり引き合いが来ている状況になりつつあると考えても良いか。

    阿部:受注金額はなかなかお答えできない。一つだけ言えるのは、価格だけで決まるわけではない。市場の需要と供給。信頼性やニーズなどの付加価値は千差万別。

    淺田:円安によって有利になっているのは確かだが、不利な点も一つある。アメリカのSpaceX社がかなり安い価格で市場に入ってきた。元々実績が無いので非常に値段を下げて価格破壊を起こしそうな値段で来ている。いくら円安でも価格ではなかなか勝てない。ただし良い話もあり、衛星は最近オール電化といい電気推進を使うようになり始めようとしている。遷移軌道から最後は衛星が加速しないといけないが、これまで化学燃料を使っていたのを電気推進に変更すると非常に軽くなる。そうすると204型で2つ同時打ち上げるなどが出来るようになり、(衛星1機当たりの打ち上げ費用が)かなり安くなる。デュアルロンチはアリアンスペース社の作戦。これまでH-IIA204型でもなかなか対応できる衛星は無かったが、これから実現する可能性がある。

    ―宇宙ニュース:具体的にどのような国や地域に受注していきたいか。打ち上げ成功率は95.5%と高いが競合他社と比べどのような水準か。

    淺田:どこどこと贅沢を言っていられる立場では無い。来るお客様拒まず。ただし最初に非常に大手から得られたのは非常に大きいと思う。平行して東南アジア・EU・アメリカなど引き合いがあればどこでも対応する。ただし衛星とロケットを組み合わせ運用までまとめてパッケージとして東南アジアや新興国に進出するのも一つの作戦。信頼度はアリアンや長征も高い。問題はロシアのプロトンで、最近失敗が続いている。成功率はここ数年のものが評価される。その意味で6号機以降連続成功しているH-IIAは非常に高いと思う。アリアンも最初の数機以外は全く失敗が無い。プロトンはトータルで数百機上げているが最近失敗している。信頼度はそこで下がっていく。スペースXのファルコン9は商業衛星はまだ1回も上がっていない。が、注文は沢山来ている。値段が安いからである。もう一つ我々として自慢したいのはオンタイム成功率。打ち上げを予告した日にきちっと上げる。決められた日に物を無くさず安く届けること。H-IIAはそのトップレベルにある。

    ―アリアンなどに打ち勝って受注を獲得できたのはあえて挙げるとすればそのオンタイム成功率が評価されたと考えられるか。

    淺田:例えば高度化開発の初号機であるが、初号機はやはり嫌がられる。それに対しこれまでの打ち上げ実績・成功率・オンタイム。オンタイムとは射場に行ってからほとんど不適合を起こさないこと。機体は何も問題を出さないということ。それらが評価されたと思う。

    ―読売:こういうことを聞くのは申し訳ないが、2段目はJAXAの実証。これが万一衛星を予定軌道に投入できないなどのトラブルが起きた時はMHIとして補償を行うのか。

    阿部:今回の契約では私どもとカスタマーとの契約なので私どもが全て保険をかけて。サービスプロバイダーの定型フォームに則って行っているので標準のものと変わらない。

    ―2段目はJAXAが用意するということで、値段は言えないが打ち上げ価格は安くなっていると考えて良いか。

    阿部:今回私どもとJAXAとカスタマーである意味WIN-WIN-WINの関係。それぞれメリットを享受し合って出来た枠組みである。

    ―NVS:今回本格的な主衛星としての商業衛星受注。H-IIAと衛星間のアセンブリに関して大きいところが受注してくれたことで今後水平展開しやすくなるといったメリットはあるか。

    淺田:これまではほとんど国内の衛星メーカーで作られた衛星だった。例外があるとすればMTSAT-1R「ひまわり6号(スペースシステムズ・ロラール社)」。整合性は取れていた。今回はEUのアストリウム社で、テレサット社に加え衛星メーカーでもトップ3に入るメジャー。そことの整合性が取れるというのも大きい。

    ―今回種子島から打ち上げられる大型衛星として初めて受注することになる。鹿児島経由で種子島に運んで打ち上げるというのはオーバーヘッドが大きいと思うが、衛星メーカーにとっての利便性を向上させる取り組みは今後強化していくか?

    阿部:確かに種子島へダイレクトに飛べないのは一つのハンディになっていた。今回のケースで言うと衛星オペレーター、つまりカスタマーとのインターフェイスを先方にとってやりやすい形で提案することで受け入れて頂いた。

    淺田:やりやすいというのは他の打ち上げサービス会社と同等の、日本に運んでから後の余分な費用はこちらで負担するということ。

    ―JAXAとともに高度化開発を進めてきたが、やっておいてよかったなという気持ちはあるか。

    淺田:まさしく高度化とは商業衛星を目指して進めてきた。政府の衛星ではそれほど必要では無い。種子島から上げるのは赤道から上げるアリアンより不利な条件。それを少しでも挽回するために我々は提案し受けていただいた。実証が最初から商業衛星でできるのは大きな意義がある。

    ―フリーランス秋山:TELSTAR 12シリーズは他の衛星オペレーター、インテルサットの方で利用されているが、今回のTELSTAR 12Vはアリアンなどで打ち上げ実績はあるか。

    阿部:NDAで話せないが、テレサットさんはアリアンをよく利用される。今回総合的な面でお選びいただいたと思う。

    ―時事:今回の受注に関連してテレサット社以外に他社の引き合いはあるか。

    阿部:けっこうある。何が契機になっているかというと為替の話、また2015年後半から2016年にかけて需要が大きい市場になっている。もう一つ、他のロケットの失敗もあり供給不足に近い状況。価格というより信頼性が評価されておりお声をかけて貰っている。更に今回こういう形でテレサット社から受注できたということで世界標準に対応できると認めて貰えるので(引き合いが)増えていくのではないか。

    ―御社の話から離れてしまうが、先日イプシロンが成功した。日本の宇宙産業拡大の期待の声も高まっているが御社の受注を踏まえ宇宙事業の拡大についてどのように考えているか

    淺田:イプシロンの打ち上げ能力はH-IIAの1/10なので完全に棲み分けが出来ている。イプシロンで対応するのは非常に小さな衛星。ロケットと衛星を組み合わせたパッケージ輸出の話をしたが、衛星によってはイプシロンの方が適切な場合がある。一緒になって世界に打って出たいと思う。海外からはH-IIAもイプシロンもいっしょこたに見えるかも知れない。H-IIAの実績を上手く利用しイプシロンも増えることを期待したい。
■関連情報
三菱重工プレスリリース テレサット社(本社カナダ)の通信放送衛星打上げ輸送サービスを受注
Telesatプレスリリース Telesat Orders High Throughput Satellite to Replace Telstar 12 and Expand Capacity at 15 Degrees West
JAXA H-IIAロケットの継続的な改良への取組み状況について (2段目高度化の内容、意義、効果がわかりやすく書いてあります)


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